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エージェント型AIのAdept AI、Amazonとの戦略提携の狙いと課題
2025年に73億ドルと予測されているエージェント型AI(Agentic AI)市場は、2030年までに年間平均成長率41%で413億ドル規模に達すると期待されています。米サンフランシスコに拠点を置くAdept AIは、この急成長中かつ競争の激しい分野での存在感を高めています。Adept AIは、OpenAIの元副社長であるDavid Luan氏と、Google Brainで活躍したAshish Vaswani氏、Niki Parmar氏ら著名な研究者によって2022年に設立されました。創業当初の目的は、あらゆるソフトウェアツールやAPIを自然言語の指示だけで操作できるAIエージェントを開発することでした。共同創業者のLuan氏が目指したのは、エンジニアがAIに作業を指示すると、AIが適切なツールやコマンドを駆使してタスクを完了し、人間は「副操縦士」としてその様子を見守るというシナリオです。
同社の主力製品である「ACT-1」は、自然言語を理解し、ソフトウェアを操作して書類からの情報抽出や社内システムの更新、メール送信などを自動化することで、利用者の生産性向上を支援します。また「ACT-2」は、独自の大規模言語モデル「Fuyu」を活用し、フォーム入力、請求書処理、スケジュール作成などのビジュアル情報を伴う複雑なタスクにも対応しています。Adeptはより高度な自律的AIの開発も視野に入れていましたが、AIモデルのトレーニングにかかる莫大な費用により計画は一時停止しました。そのため、現在はパートナー企業との協業を進め、エージェント型AIの機能を他社製品やツールに組み込む方向へ注力しています。
財務面では、Adeptは非公開企業のため業績詳細は公表されていませんが、2023年3月にGeneral Catalyst、Spark Capital、Microsoft、NvidiaなどからシリーズBで3億5,000万ドルを調達し、累計調達額は4億1,500万ドル、企業評価額は10億ドルを超えました。しかし2024年、AdeptはAmazonとの提携に伴い大きな転換期を迎えます。共同創業者兼CEOのDavid Luan氏をはじめとする創業メンバーの多くがAmazonに移籍しました。当時の報道によれば、AdeptはMicrosoftやMetaからの買収提案も検討していたとされますが、最終的にAmazonに対して一部人材を移籍させ、AmazonがAdeptの技術やマルチモーダルモデル、データセットをライセンス利用するという契約を選びました。この契約は、Amazonにとっては独占禁止法の審査を避けつつAI領域での人材や技術獲得が可能となる手法と考えられています。
Adeptの新CEOには、15年以上のソフトウェア製品開発経験と起業経験を持つ元エンジニアリング責任者のZach Brock氏が就任し、プロダクト責任者のTim Weingarten氏は引き続き同職を務めています。Adeptが活動するエージェント型AIの市場は、Microsoft、Amazon、Googleといった巨大テクノロジー企業がすでに強い影響力を持っています。そのため、Amazonが全面的な買収を行わない状況下で、Adeptに投資した投資家がどのような出口戦略を描くのかは今後注目されるポイントです。
Adept AIについて
Adept AIは2022年に創業されたサンフランシスコ拠点のスタートアップです。自然言語指示をもとにソフトウェア操作を自動化するエージェント型AIの開発を行っており、ACT-1やACT-2といった高度なAIモデルを提供しています。Microsoft、Nvidia、General Catalystなど著名投資家から累計4億ドル以上を調達し、企業価値は10億ドルを超えるユニコーン企業となっています。
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