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2025/11/18

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ClimateTechのTorch、小型火災センサーでメガソーラーの「見えない火種」を3分以内に検知

アメリカ各地でユーティリティスケールのメガソーラーが急増する一方で、異常気象と干ばつを背景に山火事のリスクも高まっています。巨大なPVアレイが広がる数百エーカー規模の敷地を、人の目だけで常時監視することは現実的ではなく、一度火が広がってしまえば、数百万ドル規模の設備が短時間で失われてしまいます。実際に、National Interagency Fire Center(NIFC)のデータによると、2024年には米国内で64,897件の山火事により約900万エーカーが焼失しており、2023年の269万エーカーから大きく増加しています。2025年も3月末時点ですでに70万エーカー以上が焼失しており、過去平均を上回るペースで推移しています。こうした状況のなかで、ソーラープロジェクトは電力インフラとしてますます重要度が高まっており、早期に火災を検知し、初期消火につなげることが資産保全の鍵になっています。

 

サンフランシスコを拠点とするスタートアップTorchは、この課題に対して「Torch」と名付けられた小型センサーを開発しました。ユーティリティスケールのソーラーサイトや送電設備など、広大な土地を遠隔監視することを目的とした火災検知プラットフォームです。CEOであり発明者でもあるVasya Tremsinは、「PG&Eの山火事問題以降、ソーラー事業者はサイトレベルの火災リスクと賠償責任を以前よりもはるかに真剣に捉えるようになりました」と語り、事業者側の意識変化を強調します。

Torchの原点は、Tremsin自身の高校時代のサイエンスフェアプロジェクトに遡ります。PhD研究者の家庭で育った彼は、中学8年生の頃から父親と一緒に、難聴者向けデバイスや干ばつ時の土壌水分測定器など、実社会の課題解決をテーマにした科学プロジェクトに取り組んできました。2017年にカリフォルニア州ナパバレーで大規模な山火事が発生し、東ベイエリア出身の彼にとって非常に身近な出来事となったことから、「なぜいつも火災を手遅れになってからしか見つけられないのか」という疑問が生まれ、早期検知センサーのアイデアが生まれました。その後、サイエンスフェアの審査員に紹介されたシリコンバレーの投資家との縁をきっかけに、父親とともにTorchを共同創業し、処方焼きの現場や木材を燃やした実験など、数多くのフィールドテストを重ねて技術を磨いてきました。COOのJo Morrisが後に共同創業メンバーとして参加し、現在はさまざまなユースケースに向けて製品を展開しています。

Torchセンサーは、ソーラーパネルで駆動する完全自立型の小型デバイスです。外部電源やWi-Fi、Bluetoothは不要で、ローカルの無線ネットワークやゲートウェイ経由でワンクリック接続できるよう設計されています。1台のセンサーには、赤外線・可視光カメラ、スペクトル解析、ガスセンサー、温度・湿度センサーなど複数のセンシング機能が統合されており、バックエンドのアルゴリズムがこれらのデータをリアルタイムに解析することで、「見て・嗅いで・感じて」火災を検知します。最大の特徴は、火の発生からおおよそ3分以内に火災を検出できる点です。この「3分」という時間は、センサーがソーラーパワーだけで半永久的に動作するために設計されたスリープ/ウェイクサイクルに由来します。消費電力を最小限に抑えるため、デバイスは一定時間スリープし、最大でも3分ごとに起動して周囲をスキャンします。そのため、遠隔地にあるソーラーファームで人がまったくいない状態でも、従来は数時間気付かれなかったような火災を、数分単位で検知して通報できるようになります。Tremsinは、「キッチンで小さな火が上がったとき、シェフは消防車を呼ぶのではなく自分で消します。それくらい早い段階で火を見つけられれば、被害は最小化できます」と説明します。

 

Torchセンサーのもう一つの強みは、ソーラーパネルの「下」を見張れることです。一般的な監視カメラや衛星画像は、上からの視点に頼らざるを得ず、パネルに遮られた地表の状況までは把握できません。一方、Torchはフェンスの支柱や現場のポールなどに取り付け、地上目線でパネルの下を見通せる配置が可能なため、過熱したパネルからのスパークが地面の植生に引火するような、典型的なブラシファイヤの初期段階を捉えやすくなります。カバーできる範囲も広く、科学的な検証では2m×2mの小さな火でも最大約113m離れた地点から検知できることが確認されています。360度視野で監視できるため、1台のセンサーで半径約10エーカーをカバーできる計算です。Morrisによると、これは概ね約200万ドル相当のソーラー設備に相当する面積だといいます。Torchは現在、カリフォルニア以外の地域、とくに植生が多く火災燃料となりやすいエリアのメガソーラーを中心に導入を進めており、東海岸周辺ではすでに66サイトへの展開を進めているといいます。

なぜソーラー向けのユースケースが重要なのかについて、Tremsinは「多くの事業者は、火災が見つかる頃にはすでに3〜10エーカー燃えていると話しています。その10分ごとの延焼が、何百万ドルものソーラー資産の焼失につながります。だからこそ、一分一秒を削ることが重要なのです」と強調します。Torchはまだサービスの立ち上がり段階にあり、実際の山火事を未然に防いだ事例は「幸いなことに、まだない」とMorrisは語りますが、実証のためのライブデモでは、センサーを周囲に配置したエリアの中央で小規模な火を起こし、一定距離から実際に検知できることを示しています。気候変動の影響で山火事リスクが高まり続けるなか、ユーティリティスケールのソーラーが電力網の中核インフラとなっていくとすれば、「火が見えない場所を見張れるかどうか」は、事業継続と資産保全の分水嶺になります。Torchのような自立型センサーは、そうした見えない火種を早期に捉える新しい保険のような役割を担い始めていると言えます。

 

Torchについて
Torchは、広域の山火事リスクを早期に検知するためのリモート火災検知センサーを開発する、サンフランシスコ発のClimateTechスタートアップです。高校時代のサイエンスフェアプロジェクトを起点に、CEOのVasya Tremsinが父親と共同で立ち上げ、COOのJo Morrisを迎えて現在の体制となりました。赤外線・可視光カメラ、ガス、温度・湿度など複数のセンシング機能を備えたソーラーパワー駆動の小型センサーを用い、外部電源や通信インフラに依存せず、約10エーカーの範囲で火災の初期兆候を数分以内に検知します。現在は主に植生が多いユーティリティスケールのソーラーサイト向けに展開しており、電力インフラのレジリエンス強化と山火事被害の軽減を目指して事業を拡大している企業です。

 

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