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ClimateTechのMariana、石油・ガス廃水からリチウムを量産する世界初のGWh規模プラント「Lithium One」を発表
Marianaは、石油・ガス生産に伴って排出される「produced water(随伴廃水)」からリチウムを回収し、バッテリー向けに量産する世界初のGWhスケール施設「Mariana Lithium One」を発表しました。Lithium Oneは、米国エネルギー産業向けの大手水処理・ケミカルサービス企業Select Water Solutionsとの提携プロジェクトで、2027年前半の商業稼働を目指しています。
リチウムは電気自動車や定置型蓄電池だけでなく、防衛産業、産業用途、モバイル機器、高強度ガラスや高性能潤滑油など、現代のエネルギー・素材インフラを支える「見えない基盤」です。しかし、1990年代に世界供給の35%以上を占めていた米国のリチウム生産は、現在では世界シェアわずか1%に低下しており、そのサプライチェーンは他国依存の状態にあります。今後15年でリチウム需要は3倍以上に拡大すると見込まれ、追加で300万トン以上の生産能力が必要になる一方、価格下落と中国による積極投資の影響で、西側の資本市場は新規プロジェクトへの投資に慎重になっている状況です。
Marianaは、こうした供給ギャップを埋めるためには「特定の資源クラスだけに頼るのではなく、あらゆる潜在的なリチウム源をフルスピードで立ち上げる必要がある」と指摘します。ハードロック、塩水鉱床、地熱ブライン、クレイなど既存資源に加え、同社が注目するのが、これまで「処理コストのかかる厄介な廃棄物」と見なされてきた石油・ガス生産に伴う随伴廃水です。米国では、シェール開発の拡大に伴い膨大な廃水が日々地上にくみ上げられ、その多くが塩水処分井に再注入されていますが、この水には商業レベルのリチウムが含まれているとされます。Marianaの試算では、米国の随伴廃水には2024年世界需要の約20%に相当する25万トンのリチウムが含まれており、現状は何も回収されないまま地下へ戻されているといいます。
すでに地表にくみ上げられている廃水からリチウムを回収できれば、新たな採掘インフラを一から整備する必要がなく、既存の集水・パイプライン・処分設備を活用することで、プロジェクトのスケジュールと設備投資の両面で大幅な圧縮が期待できます。一方で、随伴廃水からのリチウム回収には、単一地点あたりの水量が分散しやすいこと、南米の高濃度塩水と比べてリチウム濃度が低いこと、有機物を含む複雑な不純物プロファイルなどの難しさが伴います。経済性を確保するには、小規模分散型でも成立する「プロダクト化されたプラント設計」と高い資本効率、原水の組成変動にリアルタイムで対応しつつリチウムだけを選択的に分離するプロセス制御が不可欠になります。
Marianaは、ここ半世紀にわたり進化してきたDirect Lithium Extraction(DLE:直接リチウム抽出)技術を出発点に、石油・ガス廃水の特性に最適化した独自の抽出・精製プロセスを開発しています。同社は社内ラボとパイロット設備を運用し、実際の随伴廃水からバッテリーグレードのリチウム塩を製造することに成功しているとしています。中国を中心に複数のDLEプロジェクトがすでに商業稼働している一方で、米国企業はこれまで設計・建設・立ち上げ・運転を一気通貫で行える人材と組織の不足から成功事例が限られてきました。Marianaは、こうしたギャップを埋めるべく、フローシート開発とプロセス簡素化・プロダクト設計を組み合わせ、「最小限のプロセスで最大の成果を出す」ことを重視したプラント設計を進めています。
Lithium Oneでは、こうしたプロセス技術に加え、Mariana独自の強化学習プラットフォーム「PlantOS」が重要な役割を果たします。PlantOSは、鉱物精製プロセスの運転条件を数分〜数十分単位で自律的に最適化する物理AI基盤で、水量や組成が大きく変動する随伴廃水に対して、リチウム回収率、試薬消費、エネルギー効率、設備稼働率のバランスをリアルタイムに調整します。自動運転車やヒューマノイドロボットなどに使われる強化学習ツールキットを応用し、プラント立ち上げ期間を半減させ、定常運転コストを25%以上削減することを目標にしているといいます。これにより、より多くのプロジェクトをより早く立ち上げ、西側のエネルギー鉱物供給力強化に貢献する狙いです。
Lithium Oneは年間最大3,000トンのバッテリーグレードリチウム塩を生産可能なGWhスケールの施設で、2027年前半の商業稼働を予定しています。プロジェクトは、まずSelect Water Solutionsがウェスタン・ルイジアナおよびイースト・テキサスで運営するパイプライン上の既存廃水をハブ施設で処理し、その後、各油ガス田近傍にサテライト設備を展開して高濃度の塩化リチウムを製造し、ハブで最終製品へと仕上げる「ハブ・アンド・スポーク」モデルで展開されます。Marianaはこのプロジェクトを皮切りに、Mariana Lithiumブランドのもとでグローバルに多様な資源から年間数十万トン規模のリチウムを供給するプレーヤーへ成長することを目標に掲げています。
Marianaについて
Marianaは、リチウムをはじめとするエネルギー鉱物の供給力を強化することを目指すクライメートTechスタートアップです。Direct Lithium Extraction(DLE)などの分離精製技術と、強化学習を用いたプロセス自動制御プラットフォーム「PlantOS」を組み合わせ、石油・ガス随伴廃水など未活用の資源からバッテリーグレードのリチウムを経済的かつ環境負荷の低い形で回収するソリューションを開発しています。世界初のGWhスケール石油・ガス廃水リチウム生産拠点「Lithium One」を皮切りに、米国および世界各地で分散型のリチウム生産ネットワークを構築し、西側のエネルギー転換とサプライチェーン強靭化に貢献することを目指して事業を展開している企業です。
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