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Biotechエピジェネティック・リプログラミングのNewLimit、肝細胞の「若返り」を狙う初の臨床候補が目前に
長寿バイオテクノロジー企業NewLimitが、設立から数年を経て、初の「臨床入り間近」のエピジェネティック・リプログラミング治療に到達しつつあると明らかにしました。同社の研究責任者であるJacob C. Kimmelによると、加齢で機能低下した肝細胞(ヘパトサイト)の若年性機能を回復させることを狙った治療用ペイロードについて、今後数年以内にヒト臨床試験入りを目指しているといいます。NewLimitは、CoinbaseのCEOであるBrian Armstrongらによって共同設立された企業で、「個々の疾患を個別に治療する」のではなく、「老化そのもの」を標的とすることで健康寿命を延ばす医薬品の開発を掲げています。Altos LabsやLife Biosciencesなどと同様に、同社の科学戦略はエピジェネティック・リプログラミングに基づいており、加齢とともに崩れていく細胞内の遺伝子制御システムを“リセット”することを目指しています。
エピジェネティック制御が破綻していくと、細胞は本来の専門的な機能を失い、疾患にかかりやすくなります。NewLimitは、若年性の遺伝子発現パターンを再構築できる転写因子(Transcription Factor)の組み合わせを探索し、こうした変化を逆転させて失われた細胞機能を回復させることを狙っています。長期的には、老化の生物学的メカニズムそのものに介入する介入ポートフォリオを構築し、複数の加齢関連疾患に同時に影響を及ぼせる可能性を追求しています。
この1年で、同社のリード肝臓プログラムは、広範な探索段階から後期前臨床エンジニアリング段階へと進展しました。NewLimitによれば、肝臓プログラムを含む複数のプロジェクトで累計3,000以上の転写因子組み合わせをテストし、その結果として高齢ヘパトサイトに若年様の表現型を回復させる20種類以上の転写因子セットを同定したといいます。Kimmelは、9月に1つのリードペイロードが選定され、高度な開発に進めるべく正式なリード最適化(Lead Optimization)キャンペーンを開始したと明かしています。このキャンペーンはmRNAエンジニアリングを中心に行われており、最適化された肝臓向け製品は、フォーマルな開発プロセスに移行する前段階として、さまざまな前臨床モデルで評価中です。
さらに10月には、in vivoのヘパトサイトスクリーニングから新たに抽出された2つの追加ペイロードも検証されました。いずれも高齢肝細胞に若年時の“レジリエンス(耐性)”を回復させる能力を示しており、食餌性の肝障害モデルでは血中の肝障害バイオマーカーを有意に減少させたと報告されています。これは、処置されたヘパトサイトがストレスに対してより抵抗性を持つようになったことを示唆しています。「私たちは、このようなペイロードを毎月のように新たに見つけ続けています」とKimmelは述べ、「これらの結果は、当社の“エンジン”が今後も継続的に新しい発見を生み出していけるという自信につながっています」と語っています。NewLimitのターゲットは肝臓だけではありません。同社は、免疫系や血管内皮細胞(血管を内側から覆い、組織への栄養供給や修復に重要な役割を果たす細胞)を標的としたプログラムでも進展を報告しています。免疫プログラムでは、高齢ヒトT細胞を若返らせる転写因子ペイロードを作製しており、内皮細胞における初期実験は、今後の血管老化研究に向けた基盤として位置づけられています。
資本面では、NewLimitは今年初めにシリーズBラウンドで1億3,000万ドルを調達し、その後Eli Lilly and Company、Duke Management Co、Section 32などから追加で4,500万ドルを調達しました。これにより、同社の評価額は約16億2,000万ドルに達したと報じられています。これに先立ち、同社は4,000万ドルのシリーズAおよび1億1,000万ドルの創業投資を受けており、長寿バイオテクノロジー領域では最大級の資金調達規模を持つスタートアップの一つとなっています。
NewLimitについて
NewLimitは、老化そのものを直接標的とした医薬品の開発を目指す長寿バイオテクノロジー企業です。Coinbase CEOのBrian Armstrongらによって共同設立され、Altos LabsやLife Biosciencesと並ぶ「エピジェネティック・リプログラミング」アプローチの先駆者の一社とされています。加齢に伴うエピジェネティック制御の破綻に着目し、転写因子の組み合わせを用いて、老化した細胞の遺伝子発現パターンを若年時の状態へと再プログラムすることを目指しています。肝臓、免疫系、血管内皮細胞など複数の標的組織において、老化した細胞機能の回復とレジリエンス向上を狙うプログラムを進めており、リード候補CHM-029…(※仮名でなく本文では肝プログラムの開発候補名は未記載)を含む肝プログラムが最も進んだステージにあります。シリーズA、シリーズB、創業投資の合計で2億ドル以上を調達しており、長寿・老化領域における有力プレイヤーとして注目されています。
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