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2025/11/17

Startup Portfolio

大規模言語モデルのAnthropic、「Claude」搭載の新プラットフォームで重工業領域へ本格進出

Anthropicは、これまでSilicon Valleyで高性能なAIモデルとAPIエコシステムで知られ、テック、金融、大手消費財ブランドなどに広く採用されてきましたが、今回いよいよインダストリアル領域に本格参入します。同社は、Lockheed MartinやExelon、Quanta Servicesなどを顧客に持つエンタープライズソフトウェア大手IFSのイノベーション部門であるIFS Nexus Blackとの提携を発表し、「Claude」を中核に据えた産業向けAIプラットフォーム「Resolve」を公開しました。BMW、L’Oréal、Sanofi、Panasonicといった企業にすでに採用されているAnthropicにとって、IFSは重工業分野で初の大規模パートナーであり、生産ラインを止めるかどうか、気候変動由来の災害に現場のエンジニアが何分で対応できるかといった「一瞬の判断」が大きな影響を持つ現場でAIを運用していく第一歩になります。IFSのCEOであるKriti Sharmaは「AIの真価は、リスクが高い場面でどう機能するかで問われます。このパートナーシップにより、先端モデルを現実世界のインフラに対して、責任ある形で、かつスケールを持って展開できるようになります」と語っています。

 

いわゆるIndustrial AIは、デジタル上の知能と現実の機械・設備をつなぎ込み、設備故障の予測、複雑なプロセスの最適化、危険・反復作業の削減といった領域を担います。一般的な消費者向けAIアシスタントと異なり、産業用システムは、騒がしく環境変動の大きい現場、途切れることのないセンサーデータ、人が毎分リスクの高い判断を迫られる状況に対応しなければなりません。Kriti Sharmaは「Industrial AIは、多数のセンサーと機械に囲まれた環境で、人が毎分ハイリスクな意思決定を行う場面にAIを適用することです。タービンの音から故障の予兆を聞き分けたり、人間なら数時間かかる微妙なパイプラインの変化を検知したりできます。計画担当、技術者、設備をリアルタイムでつなぎ、収率を高め、コストを削減し、現場の安全な運転を維持するのが狙いです」と説明します。AnthropicのApplied AIリードであるGarvan Doyleは、「Resolve」は先端モデルの能力だけでなく、責任あるAI運用の実例を示すことも目的だと強調します。重要インフラが絡む現場でフロンティアモデルを安全かつ効果的に動かすこと、マルチモーダルな分析とバラバラな情報の統合能力が、現場の技術者が見落としがちな兆候をAIがすくい上げることに直結するといいます。Resolveは「Claude」を用いて、監視カメラ映像、機械の異音、温度・圧力といったセンサーデータ、さらには技術図面まで解釈し、作業員は音声で話しかけるだけで、メモの自動文字起こし、ドキュメントとの紐付け、意思決定のログ生成などを行うことができます。Doyleは「Claudeは不確実性を正直に扱い、作り話を避け、複雑な問題を慎重に推論するよう訓練されています」と述べており、現場ではなぜその故障予兆を指摘したのか、なぜその修理を推奨したのかを技術者が追跡し、自らの知見と照らし合わせて検証できる設計になっています。

 

このアプローチは、すでに具体的な成果も出し始めています。IFSによると、Grant’sウイスキーやHendrick’s ginで知られる蒸留所William Grant & Sonsでは、かつて断片的なデータが原因で修理の38%が緊急対応になっていたところ、Resolveの初期導入によって、ワークフローがフルスケールで展開されれば年間約$11.05Mのコスト削減が見込まれると試算しています。また、異常気象もIndustrial AIへの需要を押し上げています。昨年だけで米国では、1件あたり$1B超の被害をもたらした自然災害が27件発生しましたが、IFSによれば、Resolveを導入した電力会社は、暴風雨、洪水、山火事の後に電力を復旧するまでの時間を最大40%短縮できるといいます。システムは気象データと電力網データを解析し、停電の予測、クルーの最適なルーティング、電力会社間の応援体制の調整を支援します。Kriti Sharmaは「私たちは既存の汎用AIを無理やり重工業に当てはめているのではありません。文脈も、データも、リスクもまったく異なる領域であり、それを深く理解したうえで設計しています」と強調します。Doyleも、ラベル付きデータが整った想定問題ではなく、「常にイレギュラーが発生し続ける現場では、汎用的な推論能力を持つClaudeのようなモデルが重要であり、特定用途にだけ最適化された狭義のモデルは、想定外の状況に遭遇した瞬間に破綻しがちだ」と指摘します。 こうした中でAnthropicは、OpenAIなどがインフラ投資と業種特化のユースケース開拓を加速させる「Industrial AIレース」に本格参戦します。OpenAIはHitachiとの提携で、エネルギーや製造、産業データシステムにモデルを組み込もうとしており、MattelによるSora 2を活用した玩具デザインなど、特定業務への適用事例も増えています。その一方で、IFSとの提携は、現場オペレーション、保守ワークフロー、災害対応システムといった「信頼性が最重要の領域」にAnthropicが直接アクセスできる点で差別化要因となります。スケールの大きさがそのまま能力と思われがちな産業分野において、Anthropicは信頼性、精度、レジリエンスこそが真の勝負所になると見ています。初期導入が成功すれば、Industrial AIは「Claude」にとって最も具体的でインパクトの大きい成功事例の一つになる可能性があります。

 

Anthropicについて
Anthropicは、Claudeに代表される大規模AIモデルと安全性・信頼性を重視したAI開発方針で知られる米国のAIスタートアップです。テック企業や金融機関、消費財ブランドなどにAPIとモデルを提供しつつ、AIガバナンスや責任あるAI運用のベストプラクティスの確立にも積極的に取り組んでいます。今回のIFSとの提携とIndustrial AIプラットフォーム「Resolve」は、同社のフロンティアモデルを物理インフラや重工業の現場に広げる重要なステップであり、マルチモーダルな解析能力と広い推論力を活かして、現場のエンジニアや保守チームを支援する「信頼できるAIパートナー」としての位置づけを強めています。

 

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