生成AI音声のElevenLabs、著名人ボイスを正規ライセンス販売する「Iconic Voice Marketplace」を開始

ElevenLabsは、ブランドマーケティングのあり方を大きく変える取り組みとして、著名人の声をAIで再現し、広告やコンテンツに利用できる「Iconic Voice Marketplace」を発表しました。このマーケットプレイスでは、Matthew McConaugheyやMichael Caineといった現役の俳優に加え、Maya AngelouやMark Twain、Amelia Earhart、Burt Reynolds、Judy Garland、James Deanなど歴史上の人物の声も合成音声として利用できるようにする計画です。すべての声は権利者との合意に基づき提供され、無断ボイスクローンへの批判を受けてきた過去のAI音声ツールとは一線を画す「同意ベース」の仕組みを前面に打ち出している点が特徴です。

ElevenLabsは、著名人本人や遺族・遺産管理団体と正式なパートナーシップを結び、利用目的や範囲を明確にしたうえでAI音声を提供するとしています。ブランドは、従来の撮影スケジュールや契約交渉といった手間をかけずに、著名人の象徴的な声を広告や音声コンテンツ、ポッドキャスト、インタラクティブ体験などに組み込むことができ、エンゲージメントの向上やブランド認知の強化が期待されています。一方で、このような「合成セレブリティ」の台頭は、広告の本物らしさや倫理性をどう担保していくのかという新たな課題も浮かび上がらせています。

The Vergeなどの報道によると、ユーザーが実際のAmelia Earhartの声を正確に覚えていなかったとしても、「Amelia Earhartらしい」音声体験を提供できる点が、このマーケットプレイスのユニークさです。Matthew McConaugheyは投資家としてElevenLabsに参加しており、「この技術によって、象徴的な声を新しいかたちで残し、共有することができる」とコメントしています。Michael Caineも自らのAI音声提供に関与しており、俳優がAIによる自己の再現を脅威ではなく新たな機会として捉え始めている変化を象徴しています。

マーケティングの観点では、Brandwatchの調査で「セレブリティによる推薦は36％の消費者行動に影響を与える一方、71％の経営層は本物らしさの喪失を懸念している」とされています。ElevenLabsは、Holidayシーズンにおけるカスタムメッセージ配信など、Burt Reynoldsのような有名人の合成ボイスを使ったパーソナライズドなキャンペーンを提案する一方で、ユーザー生成コンテンツ（UGC）と組み合わせることで信頼感を維持すべきだと企業側に助言しています。X上では、「ローカルなインフルエンサーもAI版の声を販売できるのではないか」といった期待の声がある一方、「伝統的な声優やナレーターの仕事が奪われるのではないか」という不安も表明されており、業界内の受け止めは賛否が割れています。

倫理面と法的な枠組みについて、ElevenLabsは「performer-first」を掲げ、すべての声について明確な契約とロイヤルティ支払いを前提としています。Music Allyによれば、ローンチ時点で28の声がラインナップされており、権利者が利用範囲をコントロールし、収益を得られるモデルとなっています。Adweekは、この仕組みが生存している著名人だけでなく、故人の声を管理する遺産側にも新たな収入源をもたらすと指摘し、野放図だったボイスクローンの世界に秩序をもたらす試みとしてElevenLabsを位置づけています。

一方で、X上ではJennifer Caitlin Robertsが「同意なしで声を合成されるリスク」を警告するなど、ディープフェイク的な悪用への懸念も根強く残っています。ElevenLabsは、あくまで正規ライセンスに基づく合成音声のみを扱うことで線引きを図っていますが、技術そのものが普及するなかで、無許可クローンを完全に防ぐことは難しいという見方もあります。AlternativeToは、このマーケットプレイスを「同意ベースの音声ライセンスモデルへのピボット」と評しており、今後の業界標準を形づくりうる動きとして注目しています。

技術面では、ElevenLabsの「Voice Design v3」によって、感情表現や多言語対応が大幅に向上し、より人間らしい抑揚やニュアンスを再現できるようになっているとされています。Techbuzzなどのテック系メディアは、「視覚AIアバターの完成度がまだ発展途上である一方、音声AIは実用レベルに達し、広告ツールキットの中核になりつつある」と指摘します。Future Partyは、こうした音声ライセンスビジネスがElevenLabsの成長を支えていると分析し、音声分野での先行優位性を強調しています。

さらに、a16zなどの投資家は、「将来的には、誰もが自分専用のAIボイスエージェントを持ち、日常のタスクを好みの声やアクセントでこなす世界」が来ると予測しています。The Times of IndiaやETCentricは、Michael CaineやMatthew McConaugheyとの提携が、エンターテインメントから日常的なデジタル体験まで、物語性のある音声インターフェースを広げる足がかりになると報じています。一部のXユーザーは、このサービスを「クローンボイス版Cameo」と呼び、ホリデーキャンペーンなどでの高度なパーソナライゼーションに期待を寄せていますが、同時に「生成AIの進化がクリエイティブの世界にどこまで入り込むべきか」という根源的な議論も続いています。

Shelly Palmerのブログは、ElevenLabsのモデルを「無秩序だった合成音声の世界にルールを持ち込むための同意ベースのシステム」と評価しています。Judy GarlandやJames Deanのような往年のスターから、現役の俳優や声優に至るまで、権利者が自らの声をどのように管理し、どのように収益化するかという新しいビジネスモデルが立ち上がりつつあります。今後、このマーケットプレイスの成功は、企業がイノベーションと信頼性のバランスをどう取るか、本物らしさを損なわずに合成音声をどのように活用するかにかかっていると言えます。

ElevenLabsについて
ElevenLabsは、高品質な合成音声や音声変換技術を開発するAIスタートアップです。独自のディープラーニング技術を用いて、人間の声に近い自然な音質と感情表現を実現し、ナレーション、オーディオブック、ゲーム、広告など幅広い用途に対応する音声ソリューションを提供しています。今回のIconic Voice Marketplaceでは、著名人や歴史的な人物の声を正規ライセンスに基づいてAI化し、権利者が利用範囲をコントロールしながら新たな収益源を得られる仕組みを構築しています。倫理的なガバナンスと商業的な可能性を両立させながら、合成音声が社会やクリエイティブ産業にどのように浸透していくかを先導する存在になりつつあります。